飛べない小鳥は見知らぬ運命の愛に震える
 うう、とうめいて夕鶴は立ち上がった。少し離れた隣のベンチに座る。
「大丈夫? これオメガ用の薬。飲んで」
「すみません、私、助けてもらってばっかりで」
「いいのよ。気にしないで」
 幸いにもアルファがいなかったのか、人々はそのまま素通りした。
 ヒートが落ち着くと、三人で事務所に移動した。
「最初からこうしていればいいのに」
 パラリーガルはぶつぶつと夕鶴に文句を言った。

 一週間後、琴鳥は再び弁護士事務所を訪れた。
「あのときはすまない。たぶん、フェロモンでらりっていた」
 会うなり、夕鶴は謝った。
「大丈夫です。私もおかしくなっていました」
 首を下げられた時点で、普通なら気づくはずだ。なのに、されるがままになっていた。
 あのとき「責任はとる」と彼は言った。どういう意味だろう、と少しどきどきしたが、聞く勇気はなかった。
 琴鳥は公園で話がしたい、とお願いした。事務所は閉塞感があって逃げ場がない感じがして嫌だったからだ。
 パラリーガルは心配して渋ったが、夕鶴は了承して公園に同行した。
 二人でまたベンチに並んで座る。ハトは今日も相変わらず餌をさがして歩き回っていた。
 夕鶴はもう頬に湿布を貼っていなかった。あざはよく見ないとわからない程度になっている。
「メガネ、買ってないんですね」
 琴鳥が言うと、夕鶴は頷いた。
「コンタクトにしてみた」
 髪は切られてこざっぱりしており、スーツも新しくなっていた。
 みなりを整えた彼は、怜悧な弁護士然としていた。
「すごく素敵です」
 琴鳥が言うと、夕鶴は、う、と言葉につまった。
「やめろ、君に褒められると良くないことが起きる気がする」
 頬を少し赤くしながら、夕鶴はそう言った。
「そんな……」
 褒めたのに、と琴鳥は落胆した。
「気持ちはうれしい。ありがとう」
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