溶けたラムネ入りの炭酸ジュースは、美味しくない。
「そうか」
そう言いながら、他に何も言えることが無くなり、頼んだコーヒーを2口目を飲もうとする。
「先輩、ちょっと頭痛いので貰ったラムネ食べていいですか?先輩も食べますか?」
胡桃は、カバンからラムネを取り出すと左の手のひらにラムネの袋を傾けた。
「「あぁっ!」」
二人して大きな声を出したわけは
胡桃の小さな左手のひらから、ラムネがメロンソーダの中に落ちてしまったからである。
それも3個も。
その炭酸はシュワシュワと泡が溢れ出してきて、机に溢れたジュースが広がった。
こぼれた緑色のシュワシュワとした液体をしばらく眺めるも、泡が消えていくだけだった。
2人は泡が落ち着きただの甘い液体に変わるまで眺めた。
僕は口を開く。
「もうそのまま残りを飲むしか無いね」
ラムネが溶けるのが早くて、あっという間に溶けてしまった。
周りにいた人たちは、チラチラとこちらを見ている。
そんな自分の飲み物が半分以上も減ってしまった胡桃は、何も言わず一口、ストローに口をつけ飲み込んだ。
すると一口飲み終えた胡桃の顔は、少しニヤリと笑った。
「先輩も飲みますか?」
と胡桃が聞いてきた。よっぽどまずかったんだろうか。
「そんなに不味くないだろ」
そう思いながらも、言われるがままにコップに唇を付けて、少し飲んでみると、ラムネ独特の味がメロンソーダと合わさって良くない薬でもなんだかのような味がして、あんまり美味しくなかった。
というか、メロンソーダと合わないというか、合うのか、よくわからない味がした。
ラムネ単体で食べるのは美味しいのに。
ラムネが炭酸ジュースに入るとシュワシュワと注がれたビールがあふれるかのように、飛び出してきて、それも半分以上も減ったというのに。いまいちな味になるとは思わなかった。
もっと合いそうなのに。メロンソーダだからだめなのか?
「…い?…んぱい、先輩?」
どうやら色々考えてたら心配をかけたらしい
「あんまり美味しくないけど、まずいわけではないね。
ちょっとおしぼりもらってくるよ」
「あ、私がもらってきます!わたしがやらかしたので」
「頭痛いんでしょ、さっき言ってた。大人しくしてて。水ももらってくる」
「先輩、やっぱり優しいんですね」
優しい?そんなことない、自分のためにやってることだから。
このまま席を外したら、よくない噂が立つかもしれない。
いやそれはないか。
でも偽善者、というものに、当てはめたら気が楽になるだろうか。
普通じゃないだとか思われてるだとか、あいつ動かないのかとか、思われたら嫌だから。
あくまで自分をよく見せるための行動であって、胡桃にカッコつけたいとかそういうんじゃない。
自分のため。そう。自分のため。
「優しさなんて無いよ、胡桃の勘違いだと思うが」
そう言い放って、おしぼりとお水1つを貰いに行った。