こわれたおんな

2.

 女に寝台の上で組み敷かれたまま、男は震える声で言葉を発する。

「た、民には申し訳ないことをした。けれど仕方なかったんだ。この縁談を逃したら妹は一生ここにいることになる。そんなことが、あっていいはずがないだろう」

 女は冷ややかな視線を男に向けた。ほんの少しだけ刃を男の皮膚に当ててみる。
 ひっ、と息を呑む音が聞こえた。

「それだけですか?」

 口布越しにでもはっきり聞こえるほど鋭く、冷えきった女の声に男が目を見開く。

「貴方がしたことはそれだけではないでしょう?」

 男がぽかんと口を開ける。何を言いたいのかわからない、と表情全てで女に訴えかけてくる。
 男の疑問に答えるべく女は口を開き、男の罪を数え上げる。

「妹に劣情を抱いて自分で傷物にしておいて、その罪を強盗に擦り付けようとしたこと。妹から向けられる愛が疎ましくなったから、これ幸いと他の男に押し付けようとしたこと」

 男が掠れた声で呟く。

「……ナターシャ?」

 男がその愛称を呼ぶのは、この寝台の上で妹を――女を、抱く時だけだった。
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