コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「こんにちは。」
蒼士が言った。

「…こんにちは…いらっしゃいませ」
明るいとは言えない表情で水惟が言った。

「お話ってなんでしょうか…」
「まぁ座って。」
洸が水惟に着席を促すと、水惟は勧められた蒼士の向かいの席に無表情で着席した。

「今水惟が担当してるjärviの件、追加で依頼があった。」

「järviのロゴも刷新することになったから、少し急ぎになってしまうけど水惟にお願いしたい。ロゴはカフェの看板から、コースターとかメニューとか、ギャラリーのカードなんかにも使用する予定になってる。もちろんポスターにも。」
蒼士が言った。

「ロゴ…」

「湖上さんがぜひ水惟にお願いしたいって言ってくれてるんだ。」
蒼士はいつもの落ち着いた口調だが、嬉しそうに言った。

「前に言ってただろ?カフェとかホテルのトータルデザインをしてみたいって。それに近い仕事だと思うけど…」

「…え、前?それってかなり前じゃないですか…?なんで…」

5年ほど前に何気なく言った記憶がある。

「覚えてるよ。俺は水惟のデザインのファンだから、カフェもホテルも見てみたい。」
蒼士が笑顔で言うので、水惟の心臓が思わずキュ、と音を立てた。

——— 深端も辞めてほしい

4年前の言葉がすぐに蒼士の言葉を打ち消し、水惟はまた表情を無くす。

(ファンなんて…嘘つき…)
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