【書籍化予定】ニセモノ王女、隣国で狩る
 昼になると、西ノ国の外務大臣が王宮にやって来た。
 外務大臣はアマリーがニセモノだとは露ほども思わず、初めて間近で見る王女に扮(ふん)するアマリーの美しさを、初対面の挨拶代わりに褒めちぎった。
 オデンという名のその大臣は、茹で卵を彷彿とさせるツルツルの頭が印象的だった。
 オデンは固く手を握りしめ、己の胸に当てた。

「南ノ国までは決して近くはありませんが、どうかこのオデンにお任せください」

 オデンはそのふくよかな指を、アマリーたちとの間に広げた地図の上に滑らせる。

「ご説明いたします。我々は休憩を取りながら、国境に向かいます。一番の難所は我が国と南ノ国の間に横たわるジェヴォールの森です。昼間でも暗く、ならず者が住み着いております」

 人喰いの獣や恐ろしい虫も生息していると耳にしたことがある。そう尋ねようとして、アマリーは素早く言葉を呑み込んだ。代わりにただ、鷹揚に頷く。

「そうですの……」 

 私はリリアナだ、と自分に言い聞かせる。

「この広大な森の中間線に国境があり、南ノ国の迎えが待機しています。そこで馬車を乗り換え、国境を越えてそのまま南ノ国のシュノンに向かいます」

 シュノンは国境近くにある小さな街だ。
 そして翌朝、シュノンからエルベという南ノ国第二の街へ行き、エルベにて祝典が行われる。現地には数日ほど滞在し、周辺の街を周遊した後で西ノ国に戻るのだという。

(ほんの少し滞在するだけで、一億バレン……。うまくいけば、二億)

 任務は耐え難かったが、報酬も耐え難いほど欲しい。
 アマリーは地図の上に書かれたエルベという文字を、穴が開くほどジッと見つめた。



 リリアナ王女の部屋には、大きな本棚があった。彼女は相当な小説好きだったらしく、本棚には大量の本が並べられていた。
 並んでいるのはすべて恋愛小説で、リリアナ王女の好むジャンルが手に取るようにわかる。本は揃って背表紙を手前に綺麗に並べられていたが、一冊だけ表紙を手前にして、目立つ位置に大事そうに本棚に置かれていた。特別な本なのだろう。
 気になったアマリーは手を伸ばしてその厚い一冊を引き抜き、パラパラとめくった。
 巻末の余白にはなにやら書き込みがあり、その数行の文章に思わず目を留める。どうやら詩のようだ。

【私の王女様
 貴女は私の光
 貴女は私のすべて
 私は貴女という枝に止まる小鳥
 貴女のアーネストより】

「なにコレ? ……リリアナ王女にこの本を贈った人が書いたのかしら?」
「さぁ……。まさかご自分で書かれたとは思えませんが。寒い愛の詩ですね。――貴女という枝ってどういう意味ですかねぇ」
「解釈に苦しむわねぇ。リリアナ王女はこれをお気に召したのかしら?」
「取っておいてあるのですから、そうなのでしょうね」

 アマリーとカーラは見てはいけないものを見た気分になり、苦笑しつつ本を棚に戻した。

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