【書籍化予定】ニセモノ王女、隣国で狩る
「これほど似ているとは……!」

 王宮に人目を忍んで潜り込むと、アマリーは国王夫妻に出迎えられた。
 国王はアマリーを見て驚いたが、彼自身もアマリーの母によく似ていた。
 リリアナ王女の兄であるイリア王太子も、アマリーを見て言葉を失っていた。イリア王子はアマリーとは似ておらず、縦にも横にも大きな体格に、肉に半ば埋もれた瞳の持ち主であった。加えて彼は美白に並々ならぬこだわりがあるため、とても色の白い男性だった。
 アマリーはその白さに膝を折るのも忘れて、顔の色を見間違えたかと思って二度見してしまった。
 国王はアマリーの手を握り、申し訳なさそうに言った。

「そなたには厄介なことを頼み、本当にすまぬ。だが我が国はこの大事な機会を逃すわけにはいかぬのだ」

 そこへイリア王太子が割り込む。

「ファバンク家にとってもいい話だったであろう? 祝典に参加してくるだけで、巨費を受け取れるのだから」
「は、はぁ……」
「そもそも、王室に女として生まれたからには国の役に立つ結婚をするのが、当然の義務なんだ。それなのにリリアナときたら、大事な時に体調管理がなっていない」

 アマリーはなんだか悲しくなった。イリア王太子は女を道具としか思っておらず、妹の感情をおもんぱかるつもりは一切なさそうだった。

「イリア、少しは口を慎みなさい」

 国王は眉をひそめてイリア王太子を叱った後で、悲しげに続ける。

「余のかわいいリリたんは身体が繊細なのだ」

(――リリたん……? リリアナ王女のことかしら?)

 その繊細な身体で竜が闊歩する異国になど、嫁げるのだろうかという疑問は呑み込む。

「お早いご快復をお祈りします」
「そなたは我が国の外務大臣と南ノ国へ行ってもらう――これはうまくいけば、国を背負う縁談となるのだ。大役を任せたぞ」

 お任せくださいませ、とは到底言えず、アマリーは無言で低頭した。



 アマリーの正体は国王夫妻とイリア王太子、それにごく一部の官僚と教育係を除き、誰にも知らされていなかった。
 リリアナ王女のそば近くで働いていた侍女たちは、一緒に離宮へ行ってしまっていた。
 その代わりにアマリーの侍女であり乳姉妹であるカーラが公爵夫人の嘆願(たんがん)により、共に王宮に上がり王女の侍女としてついてきてくれることになった。

 南ノ国に出発するまでは数日あったが、その間アマリーには教育係のレーベンス夫人という女性が付きっ切りで指導にあたった。レーベンス夫人はリリアナ王女が生まれた時から仕えており、リリアナ王女についてよくわかっているらしい。
 アマリーとカーラは王女の部屋まで案内されると、レーベンス夫人から早速ここでの過ごし方について教えられた。

「ここを出られたら、貴女はリリアナ様として完璧に振る舞わねばなりません」

 本物の王女の評判を落とされてはたまらない、とレーベンス夫人の顔には書いてあった。彼女は手始めにリリアナ王女愛用の扇子(せんす)をアマリーに手渡した。

「リリアナ様は扇子がお好きで、特に殿方の前では不躾(ぶしつけ)な視線を遮るのにご活用されていました。リリアナ様は大層お美しいので、人目を引きすぎましたから」

 その大層な美人と似ていると言われているので、なんと反応すればいいのか困った。アマリーはとりあえず無言で頷いた。
 レーベンス夫人はゴホンと咳払いをしてアマリーとカーラを見た。

「よろしいですか? リリアナ様は、基本的にふたつのお言葉しか話されません」

 どういうことか、とアマリーとカーラは揃って目を激しく瞬いた。
 リリアナ王女には幼児並みの言語力しかないのだろうか。ふたりは困惑して目を合わせた。

「リリアナ様は大変控えめで大人しい方なのです。よほどのことがない限り、『よろしくてよ』と『まあ、そうですの』としかお口にされません」

(ちょっと信じ難い……。それが王女というものなのかしら?)

 動揺のあまり、アマリーは反応に困った。
 それでもなんとか、リリアナ王女の人となりを理解しようと努力する。
 リリアナ王女はこの国の唯一の王女だ。高貴な王女というのは、無駄なことは言わず、ゆったりと万事を周囲に侍らせた者に任せるのかもしれない。

「ですので、お静かにされていれば、本物のリリアナ様ではないと疑われることもないでしょう」

 アマリーはレーベンス夫人に対してやっとコクコクと頷いた。

「わかりました。かえってバレにくくて都合がいいかもしれませんね」

 途端にアマリーはレーベンス夫人に睨まれた。

(しまったわ。口を開きすぎたみたいね)

 アマリーは一瞬考えてから、返事をやり直した。

「まあ、そうですの」

 レーベンス夫人は満足げに頷いてくれた。
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