片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 わざわざ町田さんと、さん付けする声は振り返らなくても誰か分かる。誠の場所から私達がどんな体勢で映ったのか察し、訂正しなくてはと思うものの身体が動かない。

 何故なら誠は明らかに怒っていた。

「作業効率が下がるから社内恋愛は否定的だった部長が部下に手を出すなんて。示しがつかないのでは?」

 食って掛かる誠。それに対して部長は冷静に返す。

「君こそ、休日出勤をするほど作業効率が落ちているじゃないか。営業部のエースがこんなことで目くじら立てている暇はないはず。なぁ、町田もそう思うだろう?」

 話を振られ、戸惑う。
 確かに部長は私に睫毛がついているのを指摘しただけで、やましい所はない。こういった場合、理由をいちいち説明する方が逆効果となったりする。

 私も恐る恐る誠へ振り向き、目で訴えてみた。

「……泣いてたのか」

 しかし、充血した瞳はますます誠の誤解を深めるのであった。

「え、違うーー」

「そんなに俺の頼み事が迷惑なら最初から断ってくれれば良かったのに。部長に相談してたんだろう?」
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