しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
響は土蔵から衣都を連れ帰り、ゲストルームで律が医師を連れてくるのを待った。
しかし、待てど暮らせど戻ってくる気配がない。
……当たり前だ。
招待客は政財界の人間ばかりだ。医師免許を持っている人間などいるはずがない。
プログラムを一部変更し、衣都の出番を遅らせたが、同じ手は二度は使えない。
響はある決断を下した。
(今回は諦めよう)
ピアノを弾くためには鍵盤の他にも、足元にあるペダルを踏まなければならない。右足を負傷した状態でピアノを弾くなんて無理な話だ。
ところが衣都は演奏を中止にする気はさらさらなかったらしい。
「響さん、テーブルの上の譜面を取っていただけますか?」
「無理しない方が良い。演奏は中止にしよう。父さんにそう伝えてくる」
「中止にはしません!右足がダメなら左足でペダルを踏みます!だから……!」
「衣都……」
衣都の気持ちはよくわかった。この日のために練習を積み重ねてきたのだ。悔しいに決まっている。
秋雪から次のチャンスが与えられるかも、今のところはわからない。
それでも響は自分の決断を翻すつもりはなく、衣都も頑として首を縦に振らなかった。
互いに譲らず、事態が硬直し始めたその時、律がひと組の男女を連れて戻ってきた。