しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「どうも、響くん。その節はお世話になったね」
「瀧澤さん……」
響は旧知の仲である、瀧澤の登場に戸惑いを隠せなかった。
瀧澤久志は国内有数の家具メーカー『TAKIZAWA』で専務を務めており、響のビジネスパートナーである。
瀧澤の方が年上だが、TAKIZAWAが四季杜と同じく一族経営で、互いに創業者一族の末裔という共通点も相まって、個人的にも親しい関係が続いている。
「怪我人はこちらの女性ですか?」
瀧澤が連れていた女性は昨年結婚したばかりの彼の妻、光莉だ。しかし、瀧澤から彼女が医師免許をもっているとは聞いたことがない。
「妻の光莉は体育大学の出身で、スポーツ学を専攻していたんだ。救急医療や応急処置には心得がある」
光莉は久志に目配せすると、衣都の右足を観察し始めた。
「ちょっと立ってみてください」
衣都はそろそろと立ち上がり、地面に足をついた。痛みはあるが、立てないことはないようだ。
「骨は折れてなさそうですね。とりあえずRICEしましょうか。すみません、氷水を持ってきていただけますか?」
光莉は律に必要なものを指示し、それが届くとテキパキと応急処置を始めた。
手際よく患部を冷やし、タオルと椅子で足首を心臓よりも高い位置にあげていく。
光莉の手つきはとても素人とは思えなかった。
響は律の機転を心の中で褒めそやした。
スポーツには怪我がつきものだ。いざという時のために、応急処置の知識を持っているのも頷ける。