しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
(なんで歩くのが辛いってわかったんだろう……)
衣都はそれ以上何も言えなくなり、大人しく響のなすがままになった。
(恋人でもない女性を、こんな風に抱き上げるなんて……)
いくら駐車場には人気がなくても、軽率な振る舞いだと言わざるを得ない。
しかし、誰にも見咎められないことをいいことに、響の過保護は止まらない。片手で車のドアを開け、衣都を助手席に座らせると、満足げに頭をひと撫でする。
地下駐車場を出ると、車は四季杜の屋敷を目指した。
夢の終わりは刻一刻と迫っている。
走り出して二十分ほどで、衣都のマンションの近くまでやってきた。
目の前にある信号を左に曲がれば、マンションのエントランスが見えてくるはずだ。
衣都は既に最後のお別れを言う覚悟を決めていた。
しかし、車は左折することなく信号を直進した。
(あれ?)
衣都は思わず運転席の響を仰ぎ見た。
「響さん、マンションを通り過ぎてしまいましたけど……」
「何を言っているんだい?君も一緒に屋敷まで行くんだよ」
「私も、ですか……?」
「ああ」
当然のように同行を求められ、衣都は首を傾げた。
てっきり屋敷には響ひとりで行くものだと思っていたからだ。