しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~

 屋敷に到着すると、先日のようにリビングルームに案内される。流石に屋敷の中では横抱きにされることはなく、衣都は安堵したのだった。

「ああ、衣都ちゃんも一緒だったんだね。昨日は発表会、お疲れ様。私も見に行きたかったよ」
「素敵なお花をいただき、ありがとうございました」

 おまけの自分にも親しみのこもった温かな言葉をかけるのは、響の父、秋雪(あきゆき)だ。
 響に似た面差しを持つ秋雪は四季杜財閥を率いる総帥にして、亡くなった父とは大学時代の同期で友人でもあった。
 秋雪がいなかったら、兄と自分はきっと路頭に迷っていたことだろう。
 四季杜家が勢揃いし、否応がなしに緊張が高まる。

「さあ、二人とも座りなさい」

 四季杜夫妻は息子の到着を首を長くして待っていた。
 秋雪は落ち着きのある渋い声でソファに座るようにすすめた。

「それで、響。わざわざ私を呼んだわけを聞かせてもらおうじゃないか?」

 秋雪は肘掛けの上に頬杖をつくと、響に早く本題に入るよう促した。
 まるで、自分を呼び出す価値があるのか、試しているみたいだ。
 秋雪は実に多忙だ。
 政財界との顔つなぎや、四季杜に運輸を委託する各企業とのパイプ役を担う秋雪は、文字通り日本のみならず世界を飛び回っている。
 四季杜が財閥とまで呼ばれるようになった今なお、胡座をかくことなく精力的に営業活動に励んでいる。
 実の息子を見る目は、他人に対するものよりシビアだ。
 血の繋がった親子といえども、そう簡単に呼びかけに応じるわけではない。

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