しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
(響さん、何のためにおじ様を呼んだのかしら……?)
衣都はまだ響から何の説明も受けていない。
秋雪を呼ぶほどの大事な用件なら、なおさら衣都を連れてきた理由が不明だった。
席を外そうかと尋ねようとしたその時、響が衣都の手を握ってきた。
秋雪と綾子の前だというのに、本物の恋人のように指を絡ませるものだから、余計にぎょっとする。
しかし、それはこれから起こる混沌のほんの序章に過ぎなかった。
「父さん、母さん。僕は衣都と結婚します」
響はリビングルーム中にこだまするような、堂々とした声で言ってのけた。
時が止まったような気すらした。
(今、なんて……?)
何が起こったのか信じられなくて、響を凝視する。
『結婚』というのは、聞き間違い?それとも空耳?
「響、お前……。自分が何を言っているのか分かっているのか?」
突拍子もない響の発言に秋雪は呆れ果てていた。
しかし、響は一歩も引かなかった。
「僕は四季杜家の『しきたり』に従っているだけですよ、父さん」
秋雪とハッと息を呑むと、背もたれに身体をあずけ、今度こそ押し黙った。
話が全く読めず、衣都はただただ困惑するばかりだった。
ところが、響の驚愕の発言はとどまることを知らず、さらに爆弾が投下されていく。