しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「昨日、衣都とセックスしました」
……世界広しといえども、両親に性交を律儀に報告する息子は響しかいないだろう。
衣都は今度こそ倒れるかと思った。血の気が引いたなんて、そんな可愛いものじゃない。
「響さん、それは……!」
衣都は響に対して非難の声を浴びせかけた。
昨晩のことを誰にも言わないように口止めしていなかったのは確かだが、よりにもよって尊敬する四季杜夫妻に言うなんてあんまりだ。
「本当なの?衣都ちゃん……」
「え!?あ、その……」
綾子から真剣な眼差しで問いかけられ、衣都はしばしの逡巡の末に小さく頷いた。
響と一晩過ごしたことは最早、誤魔化しようのない事実だった。
「ああ……なんてことなの……」
綾子は顔を両手で覆い、嘆き悲しんでいた。
婚約前の大事な時期に、元居候の自分と身体の関係を持ったと告白されれば、当然の反応だ。
「あの……。婚約間近と知りながら関係を迫ったのは私なんです!どんなお叱りでも受けます!だからどうか……」
「そういうことじゃないんだよ、衣都ちゃん」
不義理を働いたと責められるべきは自分だと、主張する衣都を秋雪が遮る。
秋雪は低く唸り、最後には大きなため息をついた。
響だけが晴れ晴れとした表情で己の両親を見下ろしていた。