しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~

「衣都先生ってば可愛い顔してなかなか逞しいんだから〜!」
「あ、いや、あのう……」

 可愛い顔と揶揄われ、衣都はうろたえた。
 とっくに成人済みなのに、高校生と間違えられるほどの童顔は衣都のコンプレックスだ。

 丸顔な上におでこが広く、眉の上で揃えた前髪と背中の中程まで伸びたストレートヘアのせいか、大学生と頻繁に間違えられる。

 しかし、相手がそれを美点として誉めようというのに、真っ向から否定するのもはばかられる。

 衣都は結局、曖昧な愛想笑いを浮かべ、そそくさと自分のデスクに座った。
 バインダーを開き、先ほどまでレッスンしていた小学生組のレッスン記録を手書きでつけていく。

(ケイちゃんは、そろそろ次の曲を始めてもいいわね。ユウくんは次は左手の指運びが苦手みたいだから、もうちょっと覚えてもらいたいな。うーん……)

 ひとりひとりの個性と向き合い、最適な指導方法を模索するのも講師の役目だ。

 指導者という立場であるものの、保護者からお金を頂いている以上、彼らはお客様だ。
 レッスンは厳しいものだけではなく、楽しいものになるように気を配る必要がある。
 このさじ加減がなかなか難しく、衣都はつい甘くなってしまうのが悩みだった。

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