しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「おーこわこわ!響さんにマジギレされるかと思ったぜ」
律は駐車場に停めた車に乗り込むと、おどけながら己の身体を抱き締めた。
(本当に助かった……)
衣都は助手席に座るとドアにヘナヘナと持たれかかった。
あのまま響のマンションにいたら、なし崩しで結婚まで持ち込まれかねない。
響に睨まれるリスクを承知で連れ出してくれた律には感謝しかない。
「それにしてもよかったな〜。不毛な初恋が実って」
「わ、私……まさかこんなことになるなんて……!」
「わかっているさ。四季杜家の”しきたり”を知ってるはずないもんな?まあ、俺も?あの衣都が響さんと寝るとは思ってなかったけど」
身体の関係があると知られている恥ずかしさで、かあっと顔が熱くなっていく。
あけすけなものの言い方は律の良いところでもあり、悪いところでもあった。
「兄さんは……しきたりのことを知っていたの?」
「んー?まあな」
律は思わせぶりにお茶を濁すと、車のエンジンをかけた。
道中はしばらく無言が続いたが、車が走り出して十分ほど経つと律がおもむろに口を開いた。