しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
◇
「衣都、迎えに来たよ」
律の予想通りだと思い知ったのは翌日のことだった。
宣言通り、響はコスモスハーモニー音楽教室までわざわざ衣都を迎えにやって来た。
昨夜は律と妻子と暮らすファミリーマンションに泊めてもらったが、それが単なる一時しのぎであることを衣都も理解していた。
衣都は恭しく助手席のドアを開ける響に黙って従った。
響は一度こうと決めたら、意見を翻すことはない。
それは四季杜というやんごとない家系に生まれた響の傲慢さの表れであり、意志の強さでもあった。
途中で自分のマンションに寄ってもらい、当面必要な荷物をボストンバッグに詰めた。
満足げに微笑む響に肩を抱かれながら、一度は逃げ出したマンションに戻る。
結局、最初から他に選択肢はなかったのだ。
「この部屋は好きに使っていい。ひと通り必要な物は揃えておいたから」
「ありがとうございます」
間借りした部屋にひとり残されると、ようやく緊張が緩んでいく。