財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

「着ていいと言われても……」
「気に入るものがないなら、他にも用意させようか?それとも自分で選びたい?一応、スタイリストに衣都の好みを伝えてみたんだけど」

 開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
 衣都だって、かつては社長令嬢と呼ばれていた。好きな服やおもちゃを買い与えられたこともあった。
 しかし、四季杜財閥の御曹司は次元が違った。
 クローゼットの中に並んでいたのは、誰もがよく知るブランドショップの物ばかり。
 昨日の今日であれだけの品を揃えられるのは、四季杜の名前のなせる業だった。

「欲しい物があったら遠慮なく言ってよ。衣都がおねだりしてくれるなら何だって用意する」
「あ、いえ……。今は……大丈夫です……」
「そう?」

 衣都は口を噤み、一昨日の夜、響がなんと口にしたか改めて思い出した。

(『全部、衣都にあげる』って……。まさか、そういう意味なの?)

 響の本気を感じ、衣都は身震いした。
 目の前にいるのは、その気になれば『何でも』手に入れることができる人だ。
 響は自分の持つ権限すべてを使って、衣都を懐柔しようとしている。


< 44 / 157 >

この作品をシェア

pagetop