しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~

 教室のあるビルから出ると、信号待ちの合間にスマホをじっと眺める。
 画面には『四季杜綾子』の文字と、電話番号。
 あとひと押しで電話をかけられるというところまできて、衣都は迷っていた。

(流石に今から急に伺ったら、ご迷惑……よね?)

 出直そうと考え直し、アポイントをとるべく文章をしたためていく。

(和歌子先生ったら……。いくら私が『元居候』でもおば様とそうそう気軽に会えるわけではないのに……)

 衣都はスマホ片手に大きなため息をついた。
 四季杜家とは長年の付き合いである和歌子は、衣都が元居候であることを知っており、あえて屋敷への訪問をすすめたのだ。
 和歌子の老婆心を理解できないわけではない。
 ただ、衣都が四季杜家の居候だったのは六年も前の話だ。
 今は季節の変わり目にご挨拶の葉書を送るのと、年始の挨拶に足を運ぶぐらい。
 文章を半分ほど打ったところで信号が変わり、大勢の人が横断歩道を渡り始めていく。
 連絡は家に着いてからにしようと思ったその時、スマホが着信を知らせた。

「え?」

 衣都は思わず、その場に立ち尽くした。
 スマホには『四季杜綾子』と映し出されていた。
 なんと、電話を掛けようとしたその人からの着信があった。まさかの以心伝心?
 衣都は慌てて通話マークを押した。

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