しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
衣都は使用人に門の鍵を開けてもらい、ギイっと金属の擦れる扉をくぐった。
見事なイングリッシュガーデンを通り過ぎ、屋敷の中に足を踏み入れる。
高い天井が特長的な玄関ホールを抜け、恭しく頭を下げる執事に従い、アンティークの調度品で彩られているリビングルームまで案内された。
「失礼します」
執事が開けた扉をくぐるやいなや、綾子が甲高い声を上げた。
「衣都ちゃん、よく来てくれたわね〜!」
「ご無沙汰しております、おば様」
衣都はベルベッドのソファに座る綾子に、その場で一礼した。
そして、頭を元の位置に戻すと驚きのあまり目を見開いた。
「衣都、久し振り」
綾子の隣に座っていたのは、本来この屋敷にはいないはずの『あの人』だった。
「響さん!お帰りになっていたんですね!」
衣都はパアッと顔を輝かせた。
長い足を優雅に組み綾子と一緒に衣都を待っていたのは、四季杜家の長男である響だった。
「たまには顔を出せと母さんがうるさくてね」
響が冗談めかしてそう言うと、綾子はうふふと楽しそうに笑った。
「だから、衣都ちゃんを呼んだのよ〜。久し振りに皆でお夕食を食べましょう〜!」
「忙しいなら断ってもよかったんだよ、衣都。母さんに捕まると長いんだから」
衣都はとんでもないと、大袈裟に首を横に振った。
「呼んでいただいてとっても嬉しいです!」
心の底からそう言うと、響は目を細め、口の端を上げ微笑んでみせた。