しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
夕食は四季杜家お抱えのシェフが、腕によりをかけて作ってくれた。
贅沢な食材を惜しげもなく使った料理もさることながら、誰かと一緒に食べる夕食は会話も弾み、楽しいものになった。
衣都が四季杜家にお世話になっていたのは中学二年生から高校三年生の五年間。
高校卒業と共に、三歳年上の兄である律と四季杜家から離れた。音楽大学を卒業してからは兄との同居も解消し、一人暮らし。
何もしなくとも温かい食事が出てくるのは、それだけで感動ものだ。
……しかも、目の前には響がいる。
衣都はチラリと響の方に目をやった。
(最後に会ったのはおば様の誕生日会だったから……半年ぶりかしら?)
緩いウェーブを描くセンター分けの前髪、目元のほくろ、なだらかな顎のライン。いつも穏やかな笑みをたたえるセクシーな口元。
スリーピースの仕立ての良いネイビースーツを難なく着こなす抜群のスタイル。
四季杜財閥の後継者たる余裕なのか、王者の風格のようなものすら身に纏う。
フォークを口に運ぶ姿ですら洗練されていて、油断するとつい響に見惚れてしまう。
響が近くにいると、いつもこうなる。
遠足前の子供のようにソワソワしてしまい、情けなくなってくる。