しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
衣都は応接室から退室し、屋敷の南側に向かった。
イングリッシュガーデンがよく見える、太陽の光が燦燦と当たる一角が綾子のプライベートルームだ。
「おば様、衣都です」
扉をノックしても一向に返事がない。
いつまでも沈黙が続くばかりで、本当に部屋の中にいるのかと疑いたくなる。
それだけ、衣都と響のことがショックだったのだろうか。
「あの……おば様の気持ちを踏みにじるようなことをして本当にごめんなさい……。でも、これだけは言わせてください。私は響さんのことがずっと好きで……結婚のことも……」
『帰って……!』
辛辣な拒絶の言葉が矢のように身体に突き刺さる。
綾子からこんな風に拒絶されるのは初めてのことで、衣都は少なくないダメージを受けた。
「また、来ますね」
衣都はすっかり気落ちしてしまい、ぼんやりと長い廊下を歩いた。
(自分のことばかりで、おば様の気持ちを考えていなかったわ……)
綾子への配慮が足りなかった自分の至らなさが情けない。
心のどこかに、綾子ならば認めてくれるという甘い考えがあったことは否めない。