しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
ところが、奮起する衣都とは対照的に、響はどこか不満げだった。
「悔しいな。僕より母さんの方が大事にされているみたいだ」
「そんなこと……」
「本当に?」
何かを試すような眼差しを向けられた衣都はしばし考えた。
どちらも大切だと伝えても、響は納得しないだろう。
(どうしたら納得してもらえる?)
衣都は悩んだ末に、響の機嫌を損ねるくらいならと、恥を忍んで白状することにした。
「私……実は……。響さんがくださったチョコレートの包み紙と空箱を全部保管してあるんです」
積み重なったチョコレートの空箱は捨てようと思っても捨てられなかった、十年分蓄積された想いの塊だ。
律に何度小馬鹿にされたことか。
(ああ!やっぱり言わなければよかった……!)
あまりの恥ずかしさに、両手で顔を覆い隠す。
響がくれたからといって全部捨てずに取っておくなんて、完全に初恋をこじらせている。
「あの……?響さん?」
衣都はオドオドしながら、響を仰ぎ見た。
パチリと目が合うと、響は次の瞬間、破顔した。
「嬉しいな。差し入れした甲斐がある」
そう言うと、嬉しそうに衣都の耳の裏にキスを落とした。
なぜだかわからないけれど、機嫌はすっかり直ったようだ。
それどころか、怪しげに腰を引き寄せられ、唇が近づけられて……。