しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「はい、ストーップ!」
どこからともなく現れた律は、口づけに及ぼうとしていた二人の肩を引っ掴み、強引に引き離した。
「兄さん!?」
「悪いな、いいところで邪魔して」
律は「こいつら何やってんだ?」と言いたげな呆れ顔で、二人をジローっと眺め回した。
「本当に邪魔だよ、律」
「あーはいはい。すみませんね。会社に行く前に衣都にどうしても渡さないといけないものがあったんで」
「私に?」
「ほらよ」
「え!?あ!?」
律から渡された手提げバッグは尋常じゃない重さだった。
バッグの中を覗き込むと、パンパンに紙が詰まった分厚いファイルが三つも入っていた。
「梅見の会の招待客リストと簡単なプロフィール。ざっと二百人分ってところか?当日までに覚えてこい」
「これ全部!?」
「当ったり前だろうが!誰のために作ったと思ってんだ!おかげで寝不足だっつーの!」
まさかの律の手作りである。
どおりで見慣れた垂れ目がさらに垂れているはずである。
「どこまで覚えたか、二週間後にちゃんとチェックするからな。サボるなよ?」
……もう引き返せない。
衣都は覚悟を持って、コクンと頷いた。
ピアノの練習に加え、招待客リストの暗記。そして、綾子の説得。
のんびりしている暇はない。
結婚までの道のりは前途多難だった。