君の隣で歌いたい。


「一緒に歌う相手をよく見るんだ。なるべく正面から。言葉のとおり呼吸を合わせて歌う。ユニゾンができたら徐々に別パートを歌えるように訓練する。理解できたかい?」

「は、はい!」

「春、娘と歌う時ブレスはなるべく大げさに。呼吸を促すような指揮があるとなお良し」

「ち、ちょっと待ってくれ。それってリンカが歌えるかどうかは俺にかかってるってことか?」

 私はそれを聞いてはっとする。sawaさんは当たり前のことのように私を歌わせた。

 けれどそれはsawaさんだから簡単にやっているように見えるのであって、実際に一緒に歌う沢里には荷が重いのではないか。

 沢里もプレッシャーに感じるに違いない。

「ヘイヘイ! まさかできないとでも? 彼女の息もれを治したいとあれだけしつこく頼みこんできたのは嘘だったと?」

「えっ」

「ば、親父!」

 どたばたと沢里がsawaさんをスタジオの隅に押しやってしまう。

 私がここでsawaさんに見てもらえたのは、沢里が必死に頼んでくれたから。

 私のために無理を言ってくれたのだ。沢里の心遣いに胸がぎゅっと締め付けられる。

 
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