君の隣で歌いたい。
「あなたがお友達ね? いらっしゃい、駅から歩かせちゃってごめんなさいね。疲れたでしょうお茶にしない? テラスに紅茶を用意しているの。まったくうちの男衆は気が利かないんだから。あらこれわざわざ持ってきてくれたの? 気にしなくていいのにありがとうね。ええとお名前は確か――」
「い、五十嵐凛夏です」
「凛夏ちゃんね!」
ゆるふわな見た目とは裏腹によく回る口だ。かろうじて名乗ると沢里が慌てて私たちの間に入る。
「母さん! 急に詰め寄るなよ!」
「えっ沢里のお母さん?」
横に並ぶと姉弟に見えるほど若い。素直にそう言うと沢里のお母さんはにっこり笑う。
その笑顔は沢里とそっくりだ。
沢里のお母さんは沢里の抗議に耳も貸さず、私の手を取ってスタジオの外へと連れ出そうとするので、思わず沢里に助けを求める。
「ええと、どうしようか沢里」
沢里が返事をする前にsawaさんが「行ってらっしゃい」と手を振った。
「じゃあ俺も」
「待て春! さっきのふぬけた発声はなんだ! もっぺん歌え!」
「急に歌わせるからだろ!」
唐突に始まってしまった親子の言い合いを止める暇もなく、私たちはスタジオを後にしたのだった。