君の隣で歌いたい。


 口の中に残るマカロンに苦戦していると、沢里のお母さんは宙を見つめて話し続ける。

「前の学校は芸能科のあるところでね。セキュリティもちゃんとしているから中学受験させたんだけど……お父さんがあれだし、悪目立ちしちゃったみたいでね。なにをしても親の七光りだって文句を言われて、嫌な思いをしていたんだと思う」

 ごくりとマカロンを飲み込む。そんな話を沢里もしていた。

 ただの沢里初春として歌いたい、その望みを叶えるために沢里は勇気を持って自ら足を踏み出したのだ。

 きっと大変な決断だったと思う。すごく悩んだだろう。

 たった一人で新しい世界に飛び込んだのだ。変わりたいという願いを叶えるために。

 それに比べて私は中学時代の悪夢から目を逸らし、楽になろうと一人で歌うことを選んだ。

 それではどうにもならないと分かっていたのに。

< 155 / 267 >

この作品をシェア

pagetop