夫婦ごっこ
 家に帰ってからもずっとその調子で、奈央は必死に表情筋に力を入れて顔を引き締めていた。義昭はいつも通りにしているだけのはずだが、奈央に向ける義昭の表情も言葉も行動もすべて優しいからずっと夢見心地なのだ。

 風呂に入ってようやく一人の時間が訪れても義昭のことが頭から離れてくれなくて、風呂ではなくて義昭への気持ちでのぼせてしまいそうだった。


 そして、いざ眠る時間となれば奈央はどうするのが正解かわからなくて困っていた。昨日もさっさと自分のベッドで寝てしまったのに、今日も同じようにすると不自然に思われないだろうかと心配になる。別に今までも毎日一緒に寝ていたわけではないが、二人の間でなんとなくどっちにするかの空気があって、今日は間違いなくそういう空気が流れているのだ。

 でも、こんなに義昭のことを意識している状態で同じベッドで眠るのは危険すぎる。約束しているわけではないし、ここは何でもない振りをしてやはり自分のベッドに行くべきか。奈央がそこまで考えていると義昭も寝室に入ってきた。

「そんな真ん中に突っ立ってどうしたの? 今日はこっち」

 義昭に捕まってしまった。手を引かれて義昭のベッドまで連れていかれる。こうなってはもう逃げるわけにいかないだろう。今から自分のベッドに行くのは不自然すぎる。奈央は大丈夫だ、いつも通りだと心の中で呟きながら、恐る恐る義昭のベッドに入り込んだ。

 でも、シングルベッドは二人だととても狭くて簡単に義昭とくっついてしまいそうになる。いつもは自分からベッタリとくっついているが、今は自分から寄るなんてとてもできそうにない。奈央はベッドの端ギリギリで固まって動けなくなってしまった。
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