夫婦ごっこ
「奈央さん、そんな端っこで縮こまってないでこっちおいで? ベッドから落ちるよ?」
「うん……」

 ベッドから落ちない程度にほんの少しだけ寄ってみる。義昭とくっついてはいないが、義昭のぬくもりが空気越しに伝わってくる気がして落ち着かない。いつもの自分と全然違うとわかってはいるが、これ以上はもう近寄れそうになかった。

「奈央さん、今さら照れてる? しょうがない」
「え、ちょっ!?」

 義昭にグイっと引き寄せられた。義昭との急な密着に心臓がドクドクと強く脈打ちはじめる。この心音に気づかれてしまったらどうしようと奈央はもう気が気じゃなかった。義昭の胸に手を置いてどうにかスペースを作ろうとするが、しっかり抱き込まれているからあまり意味はなかった。

「ははは。いつも自分からすり寄ってくるのに急に照れてどうしたの?」
「すり寄っ!?」
「すり寄ってくれてたでしょ? 顔うずめるようにして」

 言葉にされるとものすごく恥ずかしい。確かに義昭が言う通り、いつも自分から義昭の胸に顔をすり寄せていた。そうすると義昭に全身を包み込まれている感じがしてとても心地いいのだ。しかも、それをすると義昭は必ず奈央の頭を優しく撫でてくれるから、それを求めてやめられなくなっていた。

「……それは義昭さんが甘えさせるからじゃん」
「そうだね。だから、そんな遠慮してないで、いつも通り甘えておいでよ。甘えるの嫌?」
「その言い方はずるい……」

 これで甘えなければ、それが嫌だと言っていることになってしまう。そんな義昭のことを拒否するようなことはしたくなくて、奈央はいつものように義昭にすり寄った。すると、義昭は少し強めにきゅっと奈央を抱きしめたあとに、いつものように優しく奈央の頭を撫ではじめた。
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