夫婦ごっこ
「はあ、ありがとう、奈央さん。奈央さんが甘えてくれないと淋しくて落ち着かなくなる」

 義昭のぬくもりも撫でてくれるその手もとても心地いい。でも、いつものように完全に身を任せることはできなくて、奈央は体の力を抜くことができない。そのせいで義昭に勘違いをさせてしまったらしい。義昭が頭を撫でている手を止めて、奈央に恐る恐る問いかけてきた。

「……奈央さん。もしかして怖い? 体強ばってる」
「あ……違う」

 義昭にその誤解は与えたくないと奈央はすぐさま否定した。そんな誤解をさせればきっと義昭は傷つくはずだ。それは嫌だ。

「本当?」
「うん……怖くはないよ」
「そっか。強引に引き込んでごめんね。もしも嫌なら離れていいからね」
「ううん。嫌じゃない。義昭さんに抱きしめられるのは好き」
「そう? 無理はしなくていいよ?」

 義昭は本当に心配そうな声音で聞いてくる。ただ照れくさいだけなのに、義昭に要らぬ心配をかけて申し訳ない。こんな誤解を与えるくらいなら正直に話したほうが断然いいだろう。

 恥ずかしいと口にすれば、さらに恥ずかしくなるだろうが、義昭に嫌な思いをさせないためならもうそれでいい。なぜ恥ずかしいのかと突っ込まれれば困ってしまうが、それはそのときに考えようと奈央は素直な想いを口にした。

「本当に好きだよ。でも……今はちょっと恥ずかしいだけ」
「うん、そっか。じゃあ、このままで大丈夫?」
「大丈夫」
「奈央さん。僕には本当に何も遠慮はいらないからね? したくないことははっきりしたくないって言っていいからね?」
「うん、わかってるよ。でも、これは嫌じゃない」
「ありがとう、奈央さん。僕もこうしてるの好きだよ」
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