夫婦ごっこ
「違う。義昭さんは何も悪くない」
「でも、僕に近づくことを怖がってるように見える。僕のことが怖くなった?」

 違う。義昭が怖いわけではない。彼に拒絶されることが怖いのだ。あのときの表情を直接向けられるのが怖かっただけだ。こんなに優しいのに、義昭自身が怖いわけない。

「……怖くない」
「じゃあ、僕といるのが嫌になった?」
「嫌じゃない。嫌じゃないよ」
「それならどうしてそんな泣きそうな顔してるの?」

 指摘された通り、奈央は泣いてしまいそうなのを必死に堪えていた。泣いて縋りついてしまいたい気持ちを堪えていた。でも、ここで泣いていいのは絶対に奈央ではない。奈央に泣く資格なんてない。この件に関して奈央は被害者ではないのだ。だから、必死に力を入れて堪え続けた。
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