夫婦ごっこ
 奈央たちは自宅で昼食を済ませるとすぐに家を出た。家の中で二人きりよりはずっといいと思ったのだ。

 でも、外に出ると義昭に自然と手を握られてしまって、奈央は思わず変な声を漏らしそうになった。手を繋ぐことなんてもうすっかり慣れているはずなのに、好きな人と繋いでいるのかと思うと急に落ち着かなくなったのだ。

 意識しすぎてしまって会話もままならなくなる。自分が普通でないことを義昭に悟られたらどうしようと奈央はもう気が気でない。どうか気づかれませんようにと頑張って平静を装いながらもずっと胸の鼓動と戦っていた。とにかく人目があれば少しは変わるはずだと早く目的地に着くことばかりを考えていた。

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