氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。




「…ポキャモンカードでもする?」

「今日はありがとうございました。では、私はこの辺で失礼します。お父上にもどうぞ宜しくお伝え下さい。」

「わぁっ、待って待って待って!まだ帰らないでっ!」

その瞬間、子供紳士が紳士をやめて、ただの子供になった。

席を立ち、さっさと立ち去ろうとした私の腕に、全力でしがみつく。

なりふり構わない必死の形相で「ポキャモンカード…!俺の秘蔵のポキャモンカードを見せてあげるから…!ま、まだ帰らないでぇっ…!」

「くっ、腕を放しなさい、子供っ…!」

小柄なくせに、何て力だ。

こちらも大人の全力で振りほどこうとするが、彼の華奢な腕はびくともしない。

「お、俺の名前は『子供』じゃないっ…む、宗像シド、なんだぜっ…!」

恐らくこれまで何度も男女の痴話喧嘩に遭遇したことのあるレストランも、28歳女と12歳男児のいざこざなんて初めてなのだろう。

未曾有の事態に、支配人も給仕係もピアニストもどうしていいか分からず、皆一様にポカン顔で突っ立っている。

こうして誰も止める者がいないせいで、こんな馬鹿げた攻防が5分も続きー…。




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