氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
「星羅っ!!!!」
何だ、まだ私に何かあるのかと、げんなりしつつ振り返る。
同時に、宗像シドが叫んだ。
「き、今日は来てくれて嬉しかったんだぜっ!!ま、また俺と会ってほしいんだぜっ!!」
「………。」
生意気だが悪い子ではないのだろうと、彼の林檎の様に真っ赤に染まった顔を見て思う。
「つ、次はもっと星羅を喜ばせてみせるんだぜっ!!」
「………。」
生憎、私は明日から第三世界です。
次どころか、下手をすれば2度と会う事はないでしょう。
そう内心で思いつつ、女子供にも容赦がないと専ら評判の私は、純粋な少年にも平気な顔で嘘を吐く。
「…ええ、楽しみにしています。」
そんな当たり障りのない社交辞令を真に受け、シド少年が輝くような笑顔を見せたところで、私の心はチクリとも痛まない。
私の心は凍っているのではなく死んでいるのではないかと疑問を抱く事が、時々ある。
再び背を向け、レストランの出口に向かう。
今度は子供の大声に引き止められることはなかったが、店を出るまで私の背中は痛いほど真っ直ぐな宗像シドの視線を感じていた。