氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。




あららぎけーいちが教えてくれたんだぜ。

『氷の女相手に恋の駆け引きは、はっきり言って時間の無駄でしかありません。押して押して押し倒すくらいの勢いで迫るのが、天霧星羅の最も効率的な落とし方です。天霧星羅はちょいワル男性に惹かれる傾向があります。一見不落の堅物女も、自分好みの危険な男に強引に口説かれれば、案外簡単に落ちてしまうものです。』

本当かなぁ…そんな手応え全然なかったけど…。

それどころか、星羅さんは俺の前で1度も笑ってくれなかったんだぜ…。

でも、あららぎけーいちのアドバイスは下手なモテ本より信頼できる。

何てったって、あららぎけーいちには過去に俺のかーちゃんを口説き落としたという実績がある。

きっと、星羅さんが喜んでくれなかったのは、俺にワルの魅力が足りなかったからなんだぜ…。

自分の実力不足を痛感し、鏡の中の自分の表情がどんどん暗く沈んでゆく。

弱気になった胸に次に込み上げてきたのは、罪悪感だった。

支配人のおじちゃんには、悪いことをしてしまったんだぜ…。

いつも俺が来日する度に一緒に遊んでくれるおじちゃんは、今回のことにも積極的に協力してくれた。

俺達の為にわざわざレストランを貸し切りにして、ロマンチックな席を用意して、給仕に徹しつつ俺にエールを送ってくれて。

特注のタキシードを用意して、俺に大人になれる魔法を掛けてくれたのもおじちゃんだ。

それなのに、あんな結果に終わってしまって…おじちゃんには後でちゃんと謝らないといけないんだぜ…。

反省の溜息を吐きつつ、脱ぎ散らかしてしまったタキシードをハンガーに掛ける。

昔からの悪い癖。気を抜くと、俺はすぐ『弱虫シド』になっちゃうんだぜ…。




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