氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
部屋に備え付けられたワインセラーから、いつものあれを取り出す。
自分に自信がなくなった夜は、とことん自分を痛めつけたくなる。
よく冷えた赤紫の液体をワイングラスにたっぷり注ぎ、一気に喉に流し込む。
喉を襲う焼けつくような刺激に、思わず乾いた笑いが漏れた。
フッ…今宵のファンタグレープは、俺の傷ついた心によく染みるんだぜ…。
そうして夜景を眺めながらファンタグレープを煽っていると、室内の電話が鳴った。
掛けてきたのは、支配人のおじちゃんだった。
何だろう。もしかして、またポキャモンカードで一緒に遊んでくれるのかな。
と、思いきや、おじちゃんがやけに嬉しそうな声で俺に言った。
『シド君、おめでとうございます。』
「え?」
『シド君の思いが、彼女に通じたみたいです。』
「何のこと?」
『君の瞳に贈る100万ドルの夜景作戦、大成功です。たった今、天霧星羅様がシド君を訪ねて来られました。』
「えっ!?」
耳を疑うような台詞に、危うくグラスを落っことしそうになった。
みっともなくうろたえながら、おじちゃんに確認する。
「えっ、何でっ、どうしてっ…あ、もしかして、レストランに忘れ物…?」
『いいえ、シド君に会いに来られました。』
そんなこと言われても、すぐには信じられない。
「ホ、ホントにホントにホントに、星羅さんが会いに来たの?本物の星羅さんが?」
『彼女が本物かどうかは、シド君の目で確かめて下さい。今からそちらにお連れしますので。』
電話が切れると同時に、パニックになった。
とりあえず、意味もなく室内を全力で駆け回り、ベッドの上で飛び跳ねる。
それから、自分がパジャマ姿であることに気付いて青ざめた。
こ、このアイアンマンのパワードスーツを模したパジャマは最高にクールだけど、多分星羅さんはそうは思ってくれないんだぜっ。