氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
私の覚悟が変わらない内に、彼の背中に声を掛ける。
「坊ちゃん。」
「わっ、星羅!」と、宗像シドが飛び起きた。
何かやましいことでもしていたのか、その驚き方は尋常ではなかった。
私もベッドに上がり、彼の前で正座をする。
阿良々木の16番目の息子より演技の才能がある私は、いかにも深刻そうな表情を作って口を開いた。
「坊ちゃん、少し私の話を聞いて頂きたいのですが、宜しいですか。」
「う、うん…?」
その効果は覿面で、宗像シドもやや緊張した面持ちになって居住まいを正した。
「実は私が今夜坊ちゃんの部屋を訪れたのには、のっぴきならない事情があるのです。」
「うん!だから、俺ー…!」
宗像シドがパッと顔を輝かせ、後ろ手に隠し持った何かを私に見ようとした。
が、私は彼の行動を遮るように言葉を続けた。
「本当であれば、私は明日あなたのお父上と一緒にカタールに発つ予定でした。しかし、うっかり者の阿良々木はあろうことか私を忘れて出国してしまったのです。」
「えっ。」
「私は阿良々木がいなければ、生活することが出来ません。無理を承知で言います。阿良々木が帰国するまで、私をこのホテルに置いて頂けませんか。その間、私が坊ちゃんの身の回りのことをさせて頂きます。…あと、お金を貸して下さい。」
「………。」
宗像シドからの返事はない。
いくら一目惚れしたお姉さんの頼み事とはいえ、流石に厚かましすぎたろうか。
この様子では良い返事は期待できそうにないと思った時、宗像シドが小さく呟いた。
「そ、そっか、そうだよね…おかしいと思ったんだ、星羅さんみたいな大人の女の人が、俺のポキャモンカードに興味を持ってくれるなんて…。」
「え?」
「な、何でもないんだぜっ!」
そう言って面を上げた宗像シドは、いつもの宗像シドだった。
一瞬、私の目の前に気の弱そうな少年がいた気がしたが、どうやらそれは目の錯覚だったようだ。