氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
「それで、このカードは俺が世界大会で優勝した時にもらったものなんだぜっ!…星羅、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてます、聞いてます。」
「やれやれ、困った生徒なんだぜ。俺の話を真面目に聞かないと、世界一のポキャモンカード博士になれないんだぜ?」
「………。」
「…星羅、もしかして眠い?」
「…ん。」
星羅さんの頭がこっくりこっくりと揺れ始める。
そんな彼女の無防備な横顔を、今度は俺がジッと見つめる番だった。
白く細い首を傾ける彼女は、まるで湖で羽を休める優美な白鳥のようだ。
程なくして、星羅さんは睡魔に打ち負け、重い瞼を閉じた。
俺は音を立てないよう気を付けながら、ポキャモンカードを片付けた。
「…おやすみなさい。今夜は星羅さんが良い夢を見れますように。」
そう彼女の寝顔におまじないをかけて、寝室を後にする。
が、気配に敏感な星羅さんはすぐに目を覚ましてしまった。
「…待ちなさい。どこに行くのですか、シド。」
「フッ、男は狼なんだぜ。同じ部屋で寝て、星羅が朝まで無事でいられる保証はないんだぜ。…俺はあっちの部屋のソファで寝るから、寝室は星羅が使っていいんだぜ。」
なんて、ジェントルマンを装ってみたけど、ホントはアイアンマンのパジャマに着替えて眠りたいだけだった。
俺には燃えるように真っ赤なアイアンマンのパジャマがよく似合う。
そして、そのパジャマを着て寝ると、俺は夢の中で無敵のスーパーヒーローになることが出来るのだ。
…だけど、キャラクターもののパジャマを着てニヤニヤと笑いながら眠る姿は、好きな人には絶対見られたくない。
「なら、シドがベッドを使って下さい。私がソファで寝ます。」
星羅さんがそう言って、足早に寝室を出て行こうとする。
俺は慌ててその後ろ姿を追いかけた。
そして、彼女を引き止める為に咄嗟に手を伸ばし、そこからささやかな偶然と不幸が連鎖した結果、星羅さんのバスローブがハラリとはだけた。
瞬間、俺の思考が完全に停止する。
一方、星羅さんはあられもない姿になっても堂々としていた。
「紐を返して下さい。」
そう言って、振り返った彼女の姿に言葉を失う。