氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
朝っぱらから生クリームのたっぷり乗ったパンケーキをモリモリと食べる。
そんなシドの姿に若さを感じつつ、私はコーヒーを啜った。
シドが1枚目のパンケーキを食べ終え、2枚目に取り掛かる前に私に言う。
「星羅、今日の予定は?」
「………。」
何気に酷な事を聞く。
阿良々木のいない私など、ただ悪戯に暇を持て余す絶世の美女でしかないのに。
「何もありません。」
そう正直に答えると、シドの表情がパッと明るくなった。
「じゃあ、今日は俺とデートをしてほしいんだぜっ!星羅の為に完璧なデートプランを用意したんだぜっ!」
「完璧なデートプラン?」
「まずはポキャモンの新作映画を観に行くんだぜっ!」
いきなり私の想像する『完璧なデートプラン』とは大きく異なる案をぶちこんできて、テンションが下がる。
しかし、鈍感な恋人はそのことに気付かないまま、自信たっぷりの口調で『完璧なデートプラン』のプレゼンを続けた。
「映画を観た後は、カフェで感想を語り合いながらランチなんだぜっ!それから、次はショッピングに繰り出すんだぜっ!その後はスパに行ってー…。」
いつになく興奮しているシドの声が、寝起きの頭にガンガン響く。
少し静かにしてほしくて、私は一口分のパンケーキをフォークに突き刺し、シドの口にねじこんだ。
そうして彼がモグモグしている間だけは、私の鼓膜に平穏が訪れた。
しかし、シドはすぐにパンケーキを飲み込み「それから、スパの後はー…。」
なので、すかさずそのおしゃべりな口に二口目のパンケーキを押し込む。
そんな私達を見て、ベッドの傍らに立っている支配人がニコニコ顔で言った。
「大変ラブラブな御様子で。お邪魔虫の私は、退散した方が宜しいでしょうか。」
私にとってこの行動は子供を黙らせる手段でしかないが、支配人の目には年上彼女が年下彼氏に『あーん♥』している光景に見えたようだ。
『そんなわけないだろう。耄碌しているのか、ジジイ。』と、視線で返事を送る。
が、その視線に気付きながら、支配人の笑顔は微動だにしなかった。
私のガンに全く動じないあたり、この老紳士只者ではないな。