氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
普段子供と全く接点の無い私は、たちまち話題に窮した。
が、見合い相手の情報を一切知らなかったことが、この状況を打破する一手になってくれた。
とりあえず、基本的な質問を口にする。
「あなたの名前はー…。」
すると、向かいに座る少年がやや食い気味に叫んだ。
「シド!」
「シド?」
「俺、宗像(むなかた)シド!!」
元気いっぱいの自己紹介に、反射的に耳を塞ぎそうになる。
子供というのは、何故こうも叫びたがる生き物なのか。
私は彼の有り余るエネルギーに辟易しつつ、脳内のデータベースを検索した。
阿良々木の子供は全員把握している私だが、しかし、宗像という名字には聞き覚えがなかった。
ここで彼ら華麗なる一族の説明をさせてもらうと、阿良々木と子供達の名字が違うことはさして珍しいことではない。
阿良々木の24人の息子と18人の娘は、母親が全員違う。
国籍も人種もバラバラで、子供同士顔を知らない、会ったこともないというのが当たり前だ。
阿良々木が『9番目の息子との婚約が破談になったのなら、14番目の息子はどうです?』なんて台詞をぬけぬけと言えるのも、その辺の事情が大きい。
阿良々木の子供を妊娠出産した女達の大半は、阿良々木と結婚までは望まなかった。
故に、子供達は母方の姓を名乗っているケースが多い。
しかし、いくら検索しても、宗像という名字は記憶のデータベースにヒットしない。
阿良々木が最近認知したという3人の息子の1人だろうか。