氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
宗像シドと名乗った少年が、ファンタグレープがなみなみ注がれたグラスを傾けて語る。
「フッ、初めて星羅を見た時、俺は衝撃を受けたんだぜ…この世にこんな美しい女がいるのかと…。」
「お褒めに預かり恐縮です。しかし、年上の女性には敬語を使いましょうか。」
「俺はその美しさに心を奪われてしまったんだぜ…全く、お前って奴は本当に罪深い女なんだぜ…。」
「それは申し訳ないことをしました。その奪った心とやらは今ここでお返ししますので、もう帰っていいですか。…今、私のこと『お前』って言いました?」
「俺はようやく自分に相応しい女に出会えたんだぜ…星羅、今夜はお前にとって忘れられない夜にしてやるんだぜ…。」
「…………。」
外見こそ似ても似つかないが、やはりこの少年は阿良々木の血を引いているのだと痛感する。
人の話を聞かないところが、父親にそっっっっくり。
ただ、腐った魚の目をしている父親と違い、息子の目は純粋だ。
そのキラキラと輝く目を見れば、私の事が本当に好きなのだと分かる。
私は彼の真っ直ぐな視線にさらされながら、肩で息を吐いた。
こうして子供の相手をするのは得意ではない。寧ろ苦手な方だ。
しかしー…と、私は一流シェフの料理を口に運びながら思った。
しかし、彼は私の為に親の金を惜しみなく使い、ここまで用意してくれたのだ。
他人の金で食う飯は美味いとよく言うが、それが阿良々木の金であれば尚更美味い。
まぁ、この素晴らしい食事と眺望に免じて、もう少しだけ彼の見合い『ごっこ』に付き合おうじゃありませんか。