エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 彼にまた名前を呼んでもらえる日が来るなら、どんなものを差し出しても構わないと思っていた。

 だけど、そう考えていた自分を恥じる。

 こんなに胸が痛くて、涙がこぼれそうになるなんて思っていなかったから。

 私が私だと、彼に知られてはいけない。

 いや、その言い方は違う。

 私がたったひと声で彼に気づいてしまったことを、知られてはいけない。

 名前を呼ばれた瞬間、まだ彼をくるおしいくらい愛しているのだと気づいたことも。

 ゆっくりと深呼吸し、顔を上げて笑顔を作る。

「ありがとうございました。お恥ずかしいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございません」

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