エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 細い路地はどこも似たような景色で、もともと方向音痴気味だった私はすっかり迷ってしまった。

 サン・マルコ広場に行きたいのに、同じ場所をぐるぐる回っている。

 ガイドに渡された地図をひっくり返してうんうん唸っていると、不意に視界に影が差した。

「迷ったのか?」

 ほぼ一日振りに聞く日本語だった。

 顔を上げると、見上げるほど背の高い細身の男性が私を見つめている。

 美術館の彫刻が抜け出してきたのだと言われても信じてしまいそうなほど、容姿の整った人だった。

 胸が騒いだのを気づかれたくなくて、ぱっと目を逸らす。

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