エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 彼が苦笑してエスプレッソを口に運ぶ。

 私も真似をして頼んだけれど、苦くてとても飲めそうになかった。

「北斗だ。末廣北斗。俺になにかされたら、この名前を訴えるといい」

「稲里純美です。末廣さんもひとりで旅行しているんですか?」

「そうだな。そんなようなものだ」

 さっき彼は注文する時、私のようにしどろもどろではなく滑らかにイタリア語を使った。

 きっと何度も来ているか、あるいはよほどイタリアが好きなのだろう。もしかしたらこの国で働いている人かもしれない。

「君もひとりらしいな。迷子になった恋人を放置する男はイタリアにいない」

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