エリート外交官はワケあり妻を執愛で満たし尽くす
 先ほどからなんとなく思っていたけれど、彼は少し皮肉っぽくて、ユーモアに溢れた話し方をする。私の周りにこういう人はいなかった。

「じゃあ、末廣さんも恋人がいないんですね。だって恋人を放っておいて、旅行客に声をかけるような人には見えませんから」

「君はおもしろいな」

「末廣さんほどじゃありません」

 日本を離れてから二十四時間ほどしか経っていないのに、日本語で会話できるのがうれしい。

 だから彼への警戒心もどんどん緩んでしまうのかもしれない。

「北斗でいい。……今日はこの後もひとりなのか?」

「はい。ムラーノ島でガラスを見たいんです」

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