麗華様は悪役令嬢?いいえ、財閥御曹司の最愛です!
 日本屈指のオフィス街、その中でも一等地に構える高層ビル。一棟全て北大路コンツェルンが所有するビルだ。旧財閥・北大路コンツェルンは、金融機関、不動産事業、海運、飲料、自動車など様々な事業を展開している。その次期総裁である正臣さんが、現在取締役を勤める『リゾートホテルKITAOUJIグループ』の本社もここである。

 ホテル事業はインバウンド需要が高まっている今、グループの中で最も力を入れている事業の一つである。その責任者として奔走する正臣さんは実に多忙で、秘書の私も時間に追われる日々。本人達が時間がないので、私たちの婚約は継続しているものの、一向に式や入籍の話は進んでいない。社内では、このまま婚約破棄になるのではという噂まで流れている。今まではそんな噂は気にしていなかった。だが、レイラ様のように突然突きつけられたらと思うと、不安が心を覆い尽くす。

「明日の打ち合わせの資料だけど……」
「既に印刷して社長のデスクの上に置いてあります」
「ありがとう。助かる」

 仕事中はあくまで「社長」と「秘書」だ。正臣さんは時々寂しそうにするけれど、強情だと言われても仕事は真面目に取り組みたかった。秘書としてなら、面白味のない私でも正臣さんの役に立てる。彼に「ありがとう」と言われる瞬間が、私はたまらなく好きだった。
 
 役員専用エレベーターを降り社長室へ向かう。すると廊下に、私の“懸念事項“がニコニコしながら立っていた。

 ふわふわと揺れるボブによく似合うクリクリの瞳、ぷるんとした唇。『可愛い』という形容詞がぴったりな小柄な身体。今日は可憐な小花柄のフレアスカートに身を包む彼女は、レイラ様のライバルによく似ている。彼女の名は西國結奈(さいごくゆな)。名前までレイラ様のライバルキャラ『ユナ』と同じなのだ。

 彼女は、鈴の鳴るような高い声で「正臣様! おかえりなさいませ!」と正臣さんに駆け寄った。

「…………東堂」

 彼女の行動には全くリアクションをせず、私にだけ見える角度で心底嫌そうな顔をした正臣さんは、私をわざと苗字で呼んだ。私は「またか」と内心毒づく。正臣さんは立場上、彼女の好意を無碍には出来ないので、いつもこうして婚約者であり秘書である私が彼女の対処をさせられている。

「西國さん、社長のことを下の名前で呼ぶものではありません」
「麗華様……。えー! だって、ここの役員は北大路家の方ばかりで、みなさん『北大路』さんじゃないですかぁ」

 甘えた声。モジモジする姿も、とても可愛い。私より身長が低い彼女が、上目遣いで見つめてくる様子は本当に可愛い。アイドルになったら熱狂的なファンに追いかけられるんじゃないかしら。

「だったら『北大路社長』でいいでしょう」
「いいじゃないですか〜。婚約者だからって嫉妬深いと嫌われちゃいますよ?」
「ち、違います! 私が言いたいのは、ここは仕事をする場であって──」
「麗華様こわーい。いつも叱られて、私メンタル病んじゃいそうです〜」

 上司である私に向かって、頬をプクッと膨らませてくるあたり、メンタルは最強だと思う。
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