危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
二人を隔てる壁
 
 部屋を出ると見知らぬ女性がいた。年は30歳前後。小柄で黒髪のショートカットで、ネイビーのブラウスにふんわりしたコットンのスカートを穿いている。すみれと蓮を見ると、はっとした顔をする。
 
「蓮。話があるの」
「ごめん、今話せない」

 蓮ははっきりと断ったが、女性は諦める気配はなかった。

「用事が終わるまで待ってる」

 その短い会話で、女性が蓮に気があるということがありありと感じられた。蓮が煮え切らない態度を取り続ける原因はこの女性なのだろうか。
 心の中に黒い靄が広がっていく。

「あの、私一人でも帰れるから」

 顔に感情を出さず、一人その場を去ろうとすると、追いかけてきた蓮に、あの女性は姉なのだと聞かされた。
 あれが弟を見る目だろうかと思いつつ、その場は納得したふりをしたが、内心穏やかではなかった。
 悶々としたまま、蓮と別れ一人部屋に帰った。

 ──きっとあの人は今頃蓮の部屋にいる。

 そんな気がしてどうにも落ち着かなかった。
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