危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
この一年、体がどんどん言うことをきかなくなるのがわかって、それでも筆を持つ手と頭だけは冴え渡っていた。同時に蓮のことを考える時間が増えた。
絵を描くことは自分のためで、お気軽な逃避だったけれど、正面から向き合うとやはり、それなりに苦しい作業でもあった。
アナログ原稿をスキャンして、印刷所に依頼して蓮のために一冊だけ製本した。
入院する前、自分が死んだら蓮に渡してほしいと祖母に託した。
住所は知らないから教えていない。名前だけで祖母が調べて送れるかなんてわからない。
今さら迷惑だと思いつつ、命に限りがあるのを実感して、どうにも抑えきれない感情が溢れて自分を制御できなかった。
それは、自分でどうにもならない運命へのせめてもの抵抗みたいなものだった。
もしかして、もうとっくに忘れて幸せに暮らしているかもしれないのに。
昔の女から届いたものに、眉を潜める恋人だとか奥さんがいるかもしれない。
それでも。死ぬのなら自分が生きた証を蓮に渡したい。
「いいじゃない、最期くらいワガママなことをさせてよ」
──忘れないで……私のこと。