危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
忍び寄る影

 日曜日は、どこへも行かず、家でおとなしく絵を描いていた。

 白金にある200坪ほどの一軒家は、派手好きの父らしく富裕層ばかりの街の中でも贅を凝らした造りだった。広い敷地の中には庭園があり、小さな噴水もあった。
 家にはあまりいない多忙の父と暮らすには少し広すぎて、寒々しいと感じることもある。

 仕事ではデジタルでの作業がメインだが、個人的に描く絵は水彩画が多い。
 水で薄めて淡く色を広げていくのが好きだった。

 小さな頃は、絵本作家になるのが夢で、美大に入り、自分の才能のなさに打ちのめされて、以来趣味でいいと割り切っているが正解だったと思う。

 同い年の女性で集まって、おしゃべりして発散するより、こうして一人で黙々と作業をするのがすみれには合っていた。
 誰かに話さなくとも、感情のアウトプットはできる。それがすみれにとっての絵だった。

 しんと静まり返った部屋で机に置いたスマートフォンから着信音がなる。なんとなく嫌な予感がして見ると非通知だった。
 今月に入り、何度か非通知の無言電話がかかってきている。
父の職業柄、個人情報については気を付けていたが、時々こういういたずらはある。
 
 少し考えてから、電話に出る。

「もしもし」
「……」

 相手が受話器越しに息を呑むのがわかる。浅い吐息。
 なんとなく相手が女性ではないか──そんな気がした。

「もしもし。どなたですか」
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