危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
スマートフォンを机に置いて、再びスケッチブックへと向かう。特になにかに使うわけではないけれど、昔から時間が空くとこうしてしまう。
絵を描く行為は心を落ち着かせてくれる。
買い物や映画などより、一人静かに絵を描く時間が一番好きだった。
母を幼少期に亡くしたすみれは、この家で親戚やらベビーシッターなどの手を借りながら育った。
入退院を繰り返したことをのぞけば、大人の言うことをよく聞く手のかからない子だったと思う。
次々浮かんでくる雑念が、手を動かしていくうちに消えていく。心地よい没入感。誰も入れない聖域。不安や嫌な気持ちが少しずつ霧散していく。
しばらくそうしているうちに、みるみる白い画用紙が彩られていく。心に浮かんだ風景を現実の世界に呼び出す心地よい疲労と、満足感。
部屋をノックする音で我に返った。
「お父様から電話ですよ」
家政婦に言われ、スマートフォンの電源を切っていたことを思い出す。
「ありがとう」
そもそも父がすみれに電話をかけることが珍しい。
「事務所にお前に危害を加えるという手紙がまた来た。やはりしばらく一人で行動しないように」
「はい」
やはり先ほどの無言電話も関係があるのだろうか。警察に言ったほうがよさそうだ。
優しい婚約者と一見何不自由のない暮らし。はたから見れば平穏で満たされたはずの日々に静かに影が差していく。