危険な略奪愛 お嬢様は復讐者の手に堕ちる
あの厳しい父があれほど信頼を寄せているのだから、片桐は相当できる人なのだろう。まだ二十代後半だろうに、ずいぶんと落ち着いて見える。
決して出すぎた真似はしないが、必要なことは先んじて行う。それでいて、自分というものを全面には出さない。
ただなんだかプライベートな部分が全く見えない。おそらく独身だろうけれど、友達といる場面や笑っている姿が想像できなかった。
仕事中だからそう見えるだけ、というのとも違う。どことなくミステリアスな雰囲気で、本当に彼の私生活などというものは存在しないのではないか。
ばかげた考えだと思っても、片桐を見ているとそんなことを考えてしまう。
気軽に世間話などしてはいけないような雰囲気が彼にはある。
駐車場に向かう道中、前から5歳くらいの男の子が泣きながら歩いてきた。夜のオフィス街に幼児が一人歩いている姿は、一目で異様だが、皆忙しいのかちらちら振り返りつつも声をかける者はいない。
折悪しく予想外に降り出した雨で皆帰路を急いでいるようだった。
都会では人に関心をもたないことは普通のことでもある。